「食から未来を創造〜医食同源から超健康を考える〜」シンポジウムを開催 Vol.2

2024年5月18日に東京医科歯科大学鈴木章夫記念講堂において行われたシンポジウム「食から未来を創造〜医食同源から超健康を考える~」。前回に引き続き、後半では3名の登壇者の講演とパネルディスカッションの様子をご紹介します。

<配信映像(約3時間30分)>
https://www.youtube.com/watch?v=-pQp9YP8xSU

<ダイジェスト映像(1分20秒)>
https://www.youtube.com/watch?v=kp0vPLinw-U

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食を起点とした前未病・超早期未病の予防・治療

後半の最初は東京医科歯科大学難治疾患研究所未病制御学部門准教授の安達貴弘氏が「食を起点とした前未病・超早期未病の予防・治療」をテーマに講演。生命の祖先は腸管しかない生物であったと話し、特に小腸について「大腸は全摘出しても生きられますが、小腸は全摘出すると生きられない。小腸には免疫細胞の半分以上、末梢神経の半分、内分泌細胞があり、これらによって腸内環境が作られて全身性免疫につながる、非常に重要な臓器です」と説明。病気の多くは慢性炎症が原因で、全世界死亡者数の74%に当たり、日本ではさらに多くの割合で、ほとんどの死因に免疫が関わっているとして、「免疫をうまくコントロールすることが大切と考えている」と話しました。また胎生期に炎症を起こすと発達障がいや生活習慣病のリスクが高まり、認知症やアレルギーなど老齢期まで影響する「病態連関」についても説明し、「特に周産期は環境因子によるストレスに注意が必要。微細な異常を早くに予防・治療すれば将来の病気のリスクを下げることができます」と促しました。

次にIgA抗体が欠損したマウスの実験例を挙げ、IgA抗体は多様な疾患の原因となる炎症を抑えると発表。疾患や感染、精神的ストレスに対するロバストネス(頑強性)を鍛えることが大切と話しました。

また未病について日本未病学会の定義を挙げつつ、「未病とはすでに病気のスイッチが入った状態です」と、自覚症状もなくこれまでの検査では検出できない微細な異常を「前未病」と定義。マウスの実験で細胞の中を調べ、微細な異常を検出した例を示しながら、前未病の状態が検出でき、「発症前の前未病であれば、食品やサプリメントなどで予防が可能です」と説明しました。マウスの小腸に直接食べ物を入れた時の小腸上皮の応答の様子も提示し、即座に脳が認識することや、世界で初めてリアルタイムで腸脳相関を同時測定した研究についても発表されました。

最後にまとめとして「超健康コンソーシアム」が掲げる3つのテーマに触れました。1つめはライフステージや個人の特性に適した機能を持つ食品の摂取など、食を起点に前未病を予防するFood Aid Project、2つめは食を起点とした感染病の予防で、食ワクチンや食べる中和抗体について、3つめは前・超早期未病検出、および疾病重篤化予測機器の開発です。「今後は食の免疫評価マップを作成し、どんなものを摂ればよいか検証します。味噌はロバストネスを上げ、未病の予防や治療効果があることが科学的に実証されています。コメについても同様で、前未病の予防・治療に最適な食材といえます」と話し、ライフステージや個人の特性に適したコメの摂取により健康寿命の伸延や医療費削減が実現できること、医食同源米の重要性についても触れました。

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前未病の予防・治療の重要性について話す安達氏

腸内環境にあったヘルスケア

続いて株式会社メタジェン取締役CFO水口佳紀氏による「腸内環境にあったヘルスケア」についての講演が行われました。まずは会場に向けて「100人が同じご飯を食べて、全員に同じ栄養素が供給されるでしょうか?」と質問。「答えはNOです。よく機能性食品の表示に、効果は個人差があると書かれていますが、そのキーは腸にあります」と、小腸から大腸に向かって進む様子をCGで再現。40兆個もの腸内細菌が漂っている映像を見ながら「腸内の未消化物が菌のエサになり分解され、それが健康に作用しています。体内の微生物により体によい物質が作られるこれらの現象を体内発酵といい、個々人が持つ腸内細菌の違いにより発酵で作られる物質が異なるため、私たちに対する健康効果が異なってきます」と説明。大麦を食べた研究を発表し、「プレボテラ属菌が大麦のβグルカンを分解して血糖値増加を抑制するコハク酸を作ります。プレボテラ属菌を持っていない人はその効果がありません。自分の腸内環境を知り、何を食べたら望んだ効果が得られるのかを探すことが大切です」と話しました。

また腸内環境がなぜ全身の疾患に関わるのかについては、「腸内には神経細胞や粘膜免疫細胞、内分泌細胞があり、腸内細菌と相互に関係しています。腸内フローラを介して生産された物質が血管に入って全身に行き渡り、働きかけることで全身の健康に関与するのです」と説明。さらに代表的な代謝物質として短鎖脂肪酸を、「肥満抑制や腸管バリア機能向上、持久力向上などさまざまな健康効果が得られるミラクルな物質」として、大学の陸上部で行った研究を例に挙げ、食物繊維やオリゴ糖を食べること、すなわち有益な腸内細菌が好むエサを届けることで短鎖脂肪酸を効率的に産生することができると説明しました。

これらのことから一人ひとりの腸内環境にあった食事を摂ることが重要だと話し、食品会社等と取り組む「腸内デザイン共創プロジェクト」についても発表。食品素材が腸内環境に与える影響についてのデータベースをもとに、一人ひとりの腸内環境にあった精密体内発酵を実現する取組みの一例として、まずは自分の腸内環境を調べてから食品素材を選び、自分専用のグラノーラを作る層別化プロダクトの事例も紹介しました。「これまで食の選択は味の好みや不足する栄養の補給など小腸より上を考えていました。それは非常に大切ですがさらに健康を考えるのであれば、これからは腸内環境まで考えた食品開発や、みなさんの食品選択が重要です。自分の腸内環境を知っている人はまだ少ないと思いますが、自分の腸内環境を知って食品を選択することができれば、超健康に近づいてくると考えられます」と締めくくりました。

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腸内環境のCG映像を示しながら話す水口氏
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健康と腸内環境の関係について熱心に聞き入る参加者

「麹菌の基礎と醸造食品以外への応用展開」

6人目となる株式会社ビオックの代表取締役村井裕一郎氏からは、「麹菌の基礎と醸造食品以外への応用展開」と題して講演が行われました。はじめに「麹とは、コメ、麦、大豆などの原料を蒸して麹菌という微生物を生やしたもの。醤油や味噌、日本酒などそれぞれに麹は違います」と話し、それぞれの麹について説明。塩麹や玉ねぎ麹はあくまでも原料に麹を混ぜたもので、麹とは違うことも強調しました。また麹はアジアを中心に存在し、日本だけのものではないということや、湿潤な気候の東洋は発酵調味料が発展し、「醤」という旨味で料理を味付けすること、乾燥地域の西洋ヨーロッパではスパイスやハーブで味付けをするという違いも説明しました。

次に種麹について、「種麹は麹菌の胞子を大量に集めたもの。室町時代に発明されました」と説明。「発酵に必要な微生物を種麹として食品そのものとは別に作ったこと、さらに種麹を作るために単一の微生物にターゲットを絞って環境操作で培養するという概念がないとできなかったもので、この概念が600年前にすでに日本にあったことがすばらしい」と称賛しました。これらの種麹を作る麹菌についても「国菌としての麹菌の定義はアスペルギルス属のカビの中でも味噌や醤油、酒など日本の発酵に使う菌株に限った定義です。麹菌の働きで大量の酵素ができ、その酵素が原料の成分を分解して発酵食品ができます。麹菌の出す酵素は3000種ともいわれます」と説明しました。その具体例として、大豆麹は酵素によってイソフラボンやグルタミン酸を生成することや、キヌアに黒麹菌をつけることでキャビアのような食感に変わることや、コーヒー豆を麹化することで味や香りの可能性が広がることも話し、「現在、世界各国で麹料理が研究されています。麹菌と原料の組み合わせは無限大。世界中で麹の可能性が追求され続けています」と話を終えました。

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世界に広がる麹の可能性について話す村井氏

パネルディスカッション

全員の講演が終わった後、新潟食料農業大学名誉学長・元農林水産事務次官の渡辺好明氏が登壇者に加わり、パネルディスカッションが行われ、会場からの質問にも答えました。まずは有機農法について「有機農法を行っていても上の田んぼから農薬が混ざった水が流れてきたらどうなるか?」と質問があり、それに対して葛原氏が「現場において有機農法の認証に照合することになります」と説明。また渡辺氏が「日本全体では100万ヘクタールの有機栽培面積を目標にしているが、農薬や水の安全性については認証がきつくなることはあれ、ゆるくなることはない」と話しました。

次に「おいしいものは健康に悪いものが多いという話がありましたが、おいしくて健康にいいものはあるのでしょうか?」という質問に折笠氏が「炭水化物と脂質、塩分の組み合わせは悪魔のうまさといわれますが、主観的な概念で個人差があります。ですが世代における食生活の影響は大きく戦中戦後の食糧難体験者はコメが好きな人が多いですが、1972年以降ハンバーガーが登場した時に10代20代だった人はジャンクなおいしさを知っています。今の時代は食の多様化がかなり進んでいるのでおいしさの基準はさらに変化しています」と回答しました。

「昔、コメは神聖化されていて祓いや清めと密接に関係があったとされています。そのコメの消費率をこれ以上上げるのは無理なのでしょうか?また医食同源米を海外や宇宙に広める予定はありますか?」という質問には、渡辺氏が「和食がユネスコの世界文化遺産に指定された理由は、健康的な栄養バランスだけではなく、年中行事に取り入れられていることも理由のひとつです。大切なのは、この伝統的な食事を子どもたちへ伝える食育で、家庭はもちろん学校や地域社会でも行っていかないといけません。世界で最も権威がある英語大辞典「OED」 には、日本の言葉で「旨み」が登録されています。旨み、つまり『だし』を使うと脂質と塩分、炭水化物が減らせます。また食事に栄養豊富な医食同源米を取り入れることが大切です」と答え、雜賀氏からは「世界でも長寿国である日本は、これからの国際社会に対する貢献は健康だと思っています。健康にいい本物のコメを維持することで国際貢献しています」と話がありました。

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左から順に、会場の質問に答える渡辺氏、葛原氏、折笠氏、雜賀

45年近く農協で働いたという人からは「コメはスーパーの特売品であるということですがどうしてコメの価格は上がらないのですか?また再び米粉ブームが広がっているようですが今後のコメ農家はどうなりますか?」と質問がありました。これに対し葛原氏から「コメの価格は需要と供給のバランスで決まるので、国としては需要に応じた生産を推進しています。そのため水田ではコメ以外に大豆や麦などを作って、生産をコントロールしています。引き続き適正な価格で取引されるよう、需要に応じた生産を行っていきます。米粉に関しては10年前にブームが到来し、米粉専用のコメを作る農家もありましたが、実際に米粉をどう使うかという問題でみんなが困りました。それを教訓に今は米粉が生活に定着する商品の開発に力を注いでいます」と話しました。

渡辺氏は「世界から見ると日本のコメは高すぎる。今、世界では8億人が飢餓状態にあります。日本の農家はコメをもっと作り、海外へ輸出し、国はアメリカやEUのようにコメ農家に直接補填する政策を考えなくてはなりません。今のままだと2050年にはコメの国内需要が400万トンを切り、日本の水田は減って地域社会が崩壊する恐れがあります。これを打開しないといけません。米粉については商品開発をもっと行い、米粉が選択される環境を作っていかなくてはなりません。米粉も、玄米が持っているビタミンやミネラルを生かした米粉を作ることが大切です」と答えました。

さらに「医食同源米は各地の管理栄養士が高く評価しています。玄米や医食同源米のようにあきらかに機能があるものに対してはどのくらいアピールができるのでしょうか」と質問があり、葛原氏が「機能性表示食品はエビデンスがあればアピールできます。玄米に高い効能があることはわかっているので、皆さんの生活に浸透していくことを期待します」と回答。「近年開発された新しい効果や発見されたものについてはアピールできるか?」の質問に対しては「効果の評価はかなり慎重に研究を重ねないといけません。いろいろな企業や研究者に研究を進めて欲しい」と話し、渡辺氏は「もう少しきめ細かい栄養分析を行わないといけないと思う。機能性表示食品については、そのデータをオープンにして誰もが見られるようにしておくことが大切」と話しました。

次に安達氏が「腸内細菌が体にいいということが世間に広がるまでに6〜7年かかったということですが、どういう研究をされてきましたか」と水口氏に問うと、「腸内細菌の研究はこれまで培養法が中心となり行われてきましたが、腸内細菌の多くは培養が難しく、どういう機能があるかなどほとんどわかりませんでした。2000年代に入り、次世代シーケンサーや解析技術が急速に発展していき、人の健康と腸内細菌の関わりが次第にわかってきました。それに伴いメディアに取り上げられ、多様なメーカーが参入することで市場が広がり、皆さんの目にも触れる機会が多くなったと思います。コメの機能性についてはまだうまく浸透していないと思いますが、健康についてのエビデンスが出せればより広まると思います。個々人によって健康状態は違うので、「あなたはこれを食べればこういう効果がある、と個別ニーズに合わせて言えるようになれば、より一層普及されると思います」と話しました。

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「コメについてのエビデンスを打ち出すことが大切」と水口氏

また安達氏が村井氏に「味噌の消費が下がっている一方で、海外では売れているようですが?」と問うと「食事には、最低限のカロリーや栄養を摂取するインフラとしての意味合いと、趣味としての二面性がある。海外では今、味噌は趣味としての意味合いが大きい。これが主食になるか、ハレの日に食べるものかで変わってくると思います」と説明がありました。

再び会場から「腸内細菌の個人差はどのくらいあるか」と質問があり、水口氏が「腸内細菌は個人固有のものであり、一卵性双生児でも異なることがわかっています。そのため食品の腸内環境への影響を明らかにするためには、クロスオーバー試験(被験者を2群に分け、被験品とプラセボを互いに時期をずらして摂取し、それぞれの結果を集計して評価する方法)を行い、同一個人の連続情報を取得することが大切です。腸内環境は個人差が大きいため、並行群間での比較試験では変化が個人差に埋もれてしまい、食品の効果が見えなくなってしまうことがあります。」と話し、「では、こういうものを食べれば超健康になれるといえるビジネスは可能ですか?」の問いに対しては「腸内フローラを検査することで個々人の腸内環境のタイプがわかり、何を食べたらより効果的かということがわかります。そして、実際に腸内環境のタイプに合わせた自分専用の食品が届くサービスが生まれています。また、腸内細菌がいる場所はちくわの内側と同じように外界とつながっていて、血液検査等でわかる体内の数値より早く変動しやすいため、腸内細菌を調べることで『前未病・超早期未病』の検出や予防にも役立つ可能性があります」と回答しました。

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海外における味噌の価値について話す村井氏

最後に、食の未来について登壇者全員が一言ずつ展望を語りました。まずは村井氏が「食事で一番大切なのはおいしい、楽しいということだと思います。健康にいいからといって無理して食べるのではなく、大切な人と食べるのが幸せだと思います」と発表。水口氏は「コメは腸内環境にどういう影響を与えるかもっと深掘りをして、どういうメカニズムでなぜ良いか、をより詳細に解明すれば、いろいろなPRの仕方ができるようになると思います」と話しました。

雜賀は「シンガポールでは産婦人科病院で10年前から医食同源米を取り入れています。今の世の中は健康のためにいくらお金をかけるかという意識がまだ低いのですが、この病院ではコメの価値をわかってくれているようです。コメにも本物のコメと偽物のコメがあります。本物のコメを食べて、昔のように健康な生活を送ってもらいたいと思います」と話し、折笠氏は「未来はこれから作るもの。50年後何を食べていたいか、自分の孫にどういうコメを食べてほしいか、日本でコメを誰も作る人がいなくて海外から輸入したコメを食べていたいのか、を我々がどう考えるかということです。未来を考える想像力を失いたくないし、引き継いでいきたいと思います」と話しました。

葛原氏は「日本人にとってコメは2000年来の長い付き合いがあり、積み重ねてきた知識もたくさんあります。しかし、コメは私たちの生活に身近過ぎて、まだわかっていないことがたくさんある。コメの価値を失わないよう、多くの人があらためてコメについて見つめ直し、研究してもらいたいと思います。また、食は“頭”で消費しているところもたくさんあります。お米にもっとエンターテイメント性をもってもらいたいですね」と発言。最後に渡辺氏が「コメは世界で一番高級で、魅力のある穀物。もっとたくさん作って世界中に食べさせてもらいたいと思っています。2050年に89億人になるという世界の人口を救うと考えています。またおいしく食べることがコメにとっての最大の功徳です」と話し、盛況のうちにシンポジウムは幕を閉じました。

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会場からはたくさんの質問が寄せられた

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