「食から未来を創造 〜“医食同源の社会実装”から見える未来〜」シンポジウムを開催 Vol.2

2024年10月20日に、神戸大学 出光佐三記念六甲台講堂で行われたシンポジウム「食から未来を創造〜“医食同源の社会実装”から見える未来〜」。前半に続き、後半も3名の登壇者の講演、およびトークセッションの様子をご紹介いたします。

<配信映像(約3時間17分)>
https://www.youtube.com/watch?v=Naj4cMVo9w8 ※外部サイトに移動します

<ダイジェスト映像(1分54秒)>
https://prtimes.jp/tv/detail/3003 ※外部サイトに移動します

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後半は食から予防医学をめざす3名が登壇。最初に、名古屋市立大学大学院医学研究科環境労働衛生学特任教授、藤田医科大学ばんたね病院客員教授の大矢幸宏氏が、「食とアレルギー疾患」について講演を行いました。

アレルギー疾患は第二次大戦後から先進国で増えはじめ、1960年以降に特に増加。日本は高度経済成長期以降から増えたことで、GDPと相関関係があること、さらにフィンランドや西ドイツの例を示しながら「先進国ほどアレルギーが早く進行しています」と説明。また大阪を例にした公害と所得の表をスライドで見せながら「公害による大気汚染は確かにありますが、大気汚染がひどくない地域で比べると高所得者の子どものほうが、喘息は多い。所得との関係が深い」と話しました。

また最初に生まれた子どもにアレルギー疾患の割合が多く、後から生まれた子どもは少ないことからGDPの状態と少子化、衛生状態の相関関係について、さらに非病原性の雑菌と共生することで免疫機能の異常化が防がれているという「衛生仮説(古い友人仮説)」についても説明を行いました。

大矢氏は産業革命によって電化製品が普及したことでアレルギー疾患が増えていることにも言及し、生物多様性が減るとアレルギー疾患も増えることを説く「上皮バリア仮説」についても紹介。「私たちは皮膚や腸管のバリアを破壊されていく環境に囲まれている。バリア機能が低下したところにもともと共存していた生物多様性が低下し、修復能力が低下して悪循環に陥っているという仮説です」と大矢氏。ホコリや界面活性剤が上皮バリア機能低下に関係するといわれていることについても話しました。

また大矢氏は「ダニを除去したり、抗原食物を摂取しないなど、アレルゲンを除去したとしても、それはアレルギー抑制にはならない」と説明。例として、「イスラエルの子どもたちは早い段階からピーナッツを食べるが、イギリスでは食べない。その結果、イスラエルの子どもはピーナッツアレルギーが約1/10と少ないのです」と話し、「上皮からホコリに混じる食物抗原が入ってIgE抗体を作りますが、その食物を食べさせると予防的に働くという“二重抗原暴露仮説”があります。これは10年かけて実証されました」と発表。日本では寝具のホコリに鶏卵の抗原が多く含まれるとし、各国で消費が多い食物のアレルギーがリスクになることも話しました。

さらに妊娠中の食事がバランスよく取れていると、生まれてくる子どもの喘息予防効果が高い、また菓子類を多く食べると子どもが食物アレルギーになりやすいことに触れ、「人工甘味料や乳化剤、不飽和脂肪酸が多い食物、繊維質の少ない食事はアレルギー疾患の原因になりやすい・アレルギーを防ぐにはバランスのよい食事や日常生活の見直しが大切です」と締めくくりました。

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GDPとアレルギーの相関やさまざまな仮説について話す大矢氏

続いて、「新しいイネで未来の食を開発する」をテーマに、京都府立大学副学長生命環境科学研究科教授の増村威宏氏が講演を行いました。増村氏は自身の研究について、「イネの花が咲いてから実になる過程でできる種子の貯蔵タンパク質がいつどこで作られるかについて研究をしてきました。また農水省の研究機関とも連携し、米の品質や加工品におけるタンパク質の役割についても研究してきました」と説明。玄米には約7%のタンパク質が含まれ、ご飯一杯(140g)につき約6.1g含まれることから、「お米はエネルギー源でありタンパク源でもあります」と話しました。

次にタンパク質の種類について、胃で溶解されるグルテリンと、難消化性のプロラミンがあることや、これらのタンパク質は玄米のどの部分に蓄積するかをスライドで説明。「タンパク質は亜糊粉層に多く含まれ、その外側が糠層。栄養価が高い物質は米の外側に多いです」と増村氏。またプロラミンは層状構造になっており、ぎっしりと蓄積されていることで消化されにくいと話し、「消化されにくい性質を利用して、腸管へ有用物質を輸送するマイクロカプセルとして使える可能性は高い」と発表しました。

こうした学術的な話の後、最近起こった令和の米騒動について考察。「南海トラフ地震臨時情報以降米騒動が起こりましたが、現在解消されつつある」として、ではなぜ米の価格が依然高値なのかについては「温暖化問題が関係している。イネは高温ストレスがかかるとデンプンを合成しても呼吸が活発化して消費してしまい、米が白濁化し、良食味米の品質が低下することで一等米不足が常態化してしまいます」と深刻な問題になることを提示。地球温暖化の原因となるCO2は畑の窒素などからも排出されていることを話し、今後は環境負荷をかけずに農業を活性化する必要があることを説きました。

これらを踏まえ増村氏は「未来食研究開発センター株式会社」を設立。屋外アグリでは無農薬・無化肥の推進や温室効果ガスの測定、圃場生物多様性の解析などを実施し、屋内アグリでは閉鎖型環境循環アグリとして背丈が20cmほどのイネの栽培や、食用昆虫の飼育を行う未来型農業について発表しました。「あまり虫は食べたくないですね」という言葉には小さな笑いが起こりつつも、「最終的には月面へ農業を持っていけるかも」という言葉に参加者は興味津々の様子でした。さらに米を用いたワクチンの研究についても「米の中にワクチン抗原を作らせて飲むだけで効果が期待できるワクチンを作ろうということです。コレラに対するワクチンとして、有効性が確認されているところです」と説明を行いました。

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未来型の屋内農業システムについて話す増村氏

第二部の最後は、東京科学大学 新産業創生研究院 医療工学研究所・未病制御学講座准教授の安達貴弘氏が「食を起点とした超健康」について講演を行いました。最初に人間の死亡原因の多くは免疫細胞が起こす慢性炎症を原因とする非感染性疾患であるとし、「免疫系をしっかりセーブすることで健康が増進できる」と説明しました。また周産期に炎症を受けて早産になると、発達障がいや生活習慣病と相関が高くなるといい、「周産期などは手厚いケアが必要であり、また環境因子に触れて体を鍛え、ロバストネス(頑強性)を高めることが大切です」と話しました。

次に腸の重要性について「腸管は私たち生命体の根源をなす臓器です。特に大腸と胃は小腸から派生しているといわれます。小腸には免疫細胞や末梢神経の半分があり、内分泌細胞や腸内細菌嚢など複雑なバランスの上に成り立っています」と説明。体内で最も多く存在するIgA抗体はいろいろな微生物に対してバリア機能を持ち、小腸の腸内細菌嚢の恒常性を維持することや、人の免疫不全症の中ではIgAの欠損症が最も多いとも話しました。実際にマウスでの実験の結果、IgAが少ないと回腸や脳で炎症を起こし、アレルギーや自己免疫疾患の増進、認知症の原因になることや、IgAの減少は老化の原因につながることも説き、「食によってIgAを増強することで腸内バランスが整い、脳の損傷も減る」と話しました。さらに腸管でどのように食物が反応するかについて行った実験も発表。水や乳酸菌が入った時に反応が起こるマウスの小腸上皮細胞の動画に、参加者は興味を持って見入りました。

安達氏は未病について「自覚症状はないが検査では異常がある、または自覚症状はあるが検査では異常がない状態を未病といい、そのいずれでもない健常者の微細な異常は前未病と我々は定義します」と説明。「前未病を標的にすれば、食で治すことも容易になる」とし、食を起点として前未病の予防治療を行う「Food Aid Project」を紹介。「それぞれのライフステージや個人の特徴をわきまえた上でセルフメディケーションを行い、食を摂ることが大切です」と強調しました。また食による前未病の予防・治療には米が最適であるとして「米の品種を変える、加工を変えることで健康増進ができるということをめざしている」と話し、「米は長期間食べてきたので安全性も実証されており、効果も期待できるため、差別のない健康が実現できる」として「Rice Aid Project」を立ち上げた経緯も説明。「コシヒカリは免疫系を活性化させる働きがあり、また老化防止にいい品種もあります。米の特徴を個人の特徴に合わせれば米で免疫を制御できます」という言葉に、会場からは「そうなんだ」と感心する声も聞かれました。

最後に安達氏は「米で健康になれば格差のない健康の実現、農業の人材確保ができ、医療費の削減にもなって持続可能な社会につながる」と結論づけました。

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腸の重要性や米による健康増進などについて語る安達氏

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