「食から未来を創造 〜“医食同源の社会実装”から見える未来〜」シンポジウムを開催 Vol.1

2024年10月20日に、神戸大学 出光佐三記念六甲台講堂において「食から未来を創造〜“医食同源の社会実装”から見える未来〜」をテーマに市民公開シンポジウムが行われました。

本シンポジウムは「医食同源米によって我が国の国難を解決するためのコンソーシアム」と、農業から医療まで持続可能な健康長寿社会の実現をめざす「超健康コンソーシアム」が共催。当日は医食同源の社会実装や、予防医学に取り組む6名の登壇者が講演、また登壇者によるトークセッションも行われました。会場には神戸市民だけではなく、遠方からも熱心な聴衆が訪れ、5月に行われた第一回のシンポジウムに続き、あらためて医食同源米と健康との密接な関係や、食の未来について学ぶ有意義な機会となりました。

<配信映像(約3時間17分)>
https://www.youtube.com/watch?v=Naj4cMVo9w8 ※外部サイトに移動します

<ダイジェスト映像(1分54秒)>
https://prtimes.jp/tv/detail/3003 ※外部サイトに移動します

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『「食から未来を創造 〜“医食同源の社会実装”から見える未来〜」シンポジウムを開催 Vol.1』画像1
会場となった神戸大学出光佐三記念六甲台講堂

はじめに農林水産省農産局穀物課米麦流通加工対策室長の葛原祐介氏が来賓として挨拶。昭和30年代後半には1人120kgを消費していた米が、今はその半分以下であることに触れ、「日本人が昔から続けてきた食生活の価値を理解してほしいと思います。また今日の講演会で話される社会実装を通して、米が日本各地の農業を支えていることや、社会的なつながりを考えるきっかけにしてほしい」と話しました。

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「米をもっと食べてほしい」と葛原氏

次に今回のシンポジウムの共催者である「超健康コンソーシアム」について、神戸大学大学院農学研究科生命機能科学専攻・藍原祥子助教から「本コンソーシアムは健康寿命の延伸、農業から医療まで一体となっての持続可能な長寿健康社会の実現をめざしています」と紹介がありました。また、「免疫機能の約半分の細胞が腸にあるといわれます。腸自体が臓器間とのネットワークを作り、生命体の健康を作っていると考えられます」と説明。さらに食べ物を起点とした前未病、超早期未病の予防治療を目的とした「Food Aid Project」について「個人の機能に即した食材の提供による生活の質の向上、啓蒙活動による健康増進、国内の農水産物の正確な機能評価によって超早期未病を予防する農業・食品産業の活性化をめざします」として、「中でも米に注目していきます。米は歴史的に見ても日常的に摂取し、安全性は証明されています。薬のように飲み忘れることもなく、特別な費用もかからない。米は安全に、安価に未病予防ができ、高い健康効果が期待できる食材です」と米の有用性について力強く語りました。

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「超健康コンソーシアム」について話す藍原氏

同じく本シンポジウムの共催者である「医食同源米によって我が国の国難を解決するためのコンソーシアム」について、司会を務める同コンソーシアム世話役の江原崇光から「本コンソーシアムは医食同源米を通じた取り組みによって、国の財政を圧迫する医療費の大幅な削減、次代を担う子どもや妊婦さんの健康度を高めて少子化を防ぐ、認知症患者を減らし健康寿命を延長させて介護費を減らす、米の消費を増やして食料自給率を高める、米の輸出によって海外の人々の健康も高める、米の価値を高めて生産農家の意欲向上を図ることを目的としています」と活動の趣旨を紹介。医食同源米については、「玄米の栄養素が残っていること、環境に優しい無洗米であること、おいしく食べ続けられること」とその定義を説明しました。また「本コンソーシアムは産(産業界)・官(行政)・学(学識経験者)・消(消費者)の4つで構成され、それぞれの立場から医食同源米の消費拡大、情報発信などを行っています」と話し、全国各地で学校給食やふるさと納税、妊婦さんへの支援などで医食同源米普及の取り組みが行われていることを紹介。現在、20の自治体を含む650を超える産・官・学・消が参画し、取り組みが進んでいることも報告しました。

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医食同源米の取り組みについて話す江原氏

いよいよ講演スタートです。第一部は、さまざまな現場で医食同源を実践されている方からお話をいただきました。トップバッターは阪神タイガース栄養アドバイザーであり、公認スポーツ栄養士として活躍する吉谷佳代氏が登壇。「お米でパフォーマンスを高めるアスリート式食事法」と題して講演を行いました。最初に「体づくりのお米」の話でスポーツ選手が筋肉強化に注力していることに触れつつ、筋肉の構造には炭水化物も含まれていると説明。「炭水化物は体のエネルギー源であり、炭水化物が不足するとタンパク質がエネルギーに変わってしまうため筋肉は合成されません。筋肉を作るにはまず十分な炭水化物を取ることが大切です。ごはん1杯で炭水化物が55g取れます」という話に、うなずく参加者の姿も見られました。

「コンディショニングのお米」の話では「適度な運動習慣がある人は感染リスクが低いが、アスリートのように過度な運動をすると免疫が下がる」という言葉に驚く参加者の姿も。「免疫を高めるには腸を強くすることが大切。アスリートも食物繊維、発酵食品、オリゴ糖が入った食品を食べるようにしています」とアスリートの食事例をスライドで披露。「食物繊維を必要量取るには米は効率がよく、選手たちは医食同源米のひとつである金芽ロウカット玄米を食べるようになってから食物繊維の摂取量が増えました」と話し、身体づくりのための炭水化物摂取は米がいいこと、糠を残した食べやすい米を取り入れることで腸が強くなりパフォーマンスが向上するという言葉で締めくくりました。

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アスリートの体づくりを支える吉谷氏

続いて、神戸大学医学部附属病院栄養管理部主任の田渕聡子氏が「医療と食においてのSDGs」をテーマに講演。「病院食と関わりのある歴史上の人物は?」と参加者にクイズを投げかけた後、病院食の歴史において福沢諭吉も健康と食に気をつけていたことや、病院食が作られる前は患者や家族が病院の廊下で自炊したこと、平成のグルメブームで病院食も質の改善やサービスが図られているという話に参加者も興味深く聞き入りました。

次に神戸大学医学部付属病院の病院食のエネルギー比率をスライドに写し、炭水化物がエネルギー源として多いことに触れ「日本人の主食である米から摂取する比率が高い」と説明。「食事は自然なものを取り入れたいということで、医食同源米を導入することになりました」と話し、医食同源米の栄養やおいしさの他、水道費削減や調理作業の時間短縮につながるという無洗米のメリットにも触れました。「実際に、おかゆがおいしくて完食しましたという患者さんの声も半数以上聞かれました」という言葉に、感心した様子の参加者の姿も見られました。

さらに調理場で出るゴミについて、神戸大学医学部附属病院は生ゴミ処理機で堆肥にして必要とされるところに配っている取り組みを紹介。また田渕氏の先輩であり、サステナブルな食育や食のケミカルフリーに取り組む糖尿病内分泌内科の高橋路子医師が、神戸大学の食資源教育研究センターに働きかけて無農薬栽培を実現したことや、堆肥を使って育てた無農薬のおいしい米を医食同源米に加工したものを病院で提供したことについても話しました。「患者さんからは、香りがよくもちもちとした食感でおいしかったという声が聞かれました」と田渕氏。最後に栄養摂取は治療の一環であることや病院食もおいしさを追求していくこと、食を通じて健康と環境にも配慮して次世代へつなげることの大切さを説き、会場からは賛同の拍手が送られました。

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病院の食事への取り組みについて話す田渕氏

第一部のトリを飾ったのは、大阪府泉大津市長の南出賢一氏です。南出氏は官民連携、市民共創によるまちづくりの中で特に「農と食と健康を守るための取り組み」について講演しました。まずは泉大津市の概要について紹介した後、「全国的に米の作付面積が減少し、農業従事者も減っていく昨今の状況は何年も前から予測していました。泉大津市は農地面積が2.4%しかなく、我々都市部の人間は農山村がないと生きていけません。我々が農村を支えないといけない」と強調。農山村の生産地と消費地のダイレクトサプライチェーンを構築し、消費地と生産地をつなぐ官・官・民連携の仕組みを紹介しました。「我々消費地は学校給食など大きな出口がある。和歌山県橋本市の棚田で特別栽培米をお願いして作っていただき、全体の1/3が休耕田でしたが復活しました。農家の方からは『所得が上がった。出口があるから安心して米を作ることができた』との声が上がりました」と南出氏。他にも、「近畿いちの米どころ、滋賀県東近江市でも、(米を生産することは)あと5年持たないといわれていましたが、我々と協定を結ぶことで頑張れますといっていただけました」と話し、現在は北海道から沖縄県まで全国8都市と連携を結んでいることを紹介。旭川市が「オーガニックビレッジ宣言」をしたことによって旭川市の有機農家が増えたことにも触れ、都市部が農山村にブリッジをかけることで生産が安定する重要性、また生産地と消費地の共存共生の重要性を話しました。

「人間と自然界のウェルビーイング」のテーマでは、医食同源をめざした給食改革について紹介。米は医食同源米を使用し、自然塩や発酵、季節食を取り入れてトランス脂肪酸はできる限り削減するなど、担当者と議論を交わしながら給食を作っていることを話しました。おいしそうな給食写真に、スライドを食い入るように見つめる参加者も。「来年9月からは小学校に次いで中学校も自校調理に変わります」という南出氏の言葉に「おお」と会場から感嘆の声も聞かれました。

泉大津市では日本で最初に、「マタニティ応援プロジェクト」として医食同源米を妊婦に10kgプレゼントする取り組みを行っています。「約4割弱の方に、健康状態がよくなったと実感していただいています。こうした健康と食に対する取り組みで移住者が増え、昨年約20年ぶりに転出より転入超過になりました」と南出氏。「泉大津市の取り組みがオセロのように全国へ広がって、皆さんが健康になっていく、農業が守られていく、医食同源米が広がるような取り組みを積極的に発信し、日本を守っていきたい」という言葉に、「すばらしい!」「さすがです!」と会場からは大きな拍手が沸き起こりました。

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「生産地と消費地のブリッジが大切」と熱く語る南出氏

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